EVOWORX 10th Anniversary site

EVOWORX 10周年記念対談 「縁側の10年史」

Interview_Yuta Tsukaoka / Text_Eiji Nogaki / Photo_Yukihide Nakano

2007年に設立されたEVOWORXは、同年に設立されたアートディレクター・森本千絵さんが代表を務めるgoen°のインタラクティブ部門としても活動しています。今年、共に10年を迎えたEVOWORXとgoen°。周年企画として、両社の代表である矢野賢史と森本千絵さんのこれまでの歩みを対談形式で振り返ります。

森本千絵さんから、矢野への第一印象

森本:10周年おめでとうございます。矢野さんの時代が、こんなに早く来るとは思っていなかった。

矢野:いやいや。もう、いい年になってますけどね。

森本:goen°のようなアナログな会社としては、もしEVOWORXと一緒にやっていなければ、時代に取り残されていました(笑)。

矢野:そんなことはないでしょう。もともとの出会いは僕がkurkku(クルック)(注1)のデジタルコミュニケーションを担当していて、その時のアートディレクターが森本さんだったんだよね。当時はまだ博報堂だった?

注1:kurkku ... アーティスト・桜井和寿氏と音楽プロデューサー・小林武史氏による自然エネルギー促進プロジェクト「apbank」。食プロジェクトとして2006年に「kurkku kitchen」が神宮前にオープンした。

森本:そうだね。私は博報堂に籍を置きながらkurkkuの店舗ロゴから販促物のグラフィックデザインまでいろいろとやっていて、Webサイトを制作するときに「Webサイトはこの人とやってください」って紹介されたのが矢野さんだったの。

当時、広告代理店にいたから、各クリエイティブはそれぞれ専門のクリエイターで分業するのが普通だと思っていたのに、矢野さんはWebクリエイターでありながら、自分で三脚立てて、すごいレベルの写真を撮影していたよね。Webの構築から撮影まで自前でやることに、すごく驚いたのを覚えてる。

だけど長髪だったし、少し遊び人っぽかったよね(笑)。その当時のオフィスに遊びにいったら、巨大なスクリーンにお洒落な映画とかサーフィンの映像が流れてて。

矢野:なんだか、気取ってたみたいじゃない(笑)。

森本:ちょうど矢野さんと出会った時が、私が独立を考えていたり、家族のことで悩んでいるタイミングだったの。

そのときの自分の全力を込めて作った作品がMr.Childrenの「彩り」(注2)という曲のPVだったのだけど、それをスクリーンが大きいからって、矢野さんのオフィスで観たんだよね。

初めて自分で編集を含めて最後まで手がけた作品だったから、「どうしてもこのPVは大きいスクリーンで見たいんだ」って一緒に観ていたら、矢野さんが……泣いたっけ?

注2:森本千絵さんの代表作であるMr.childrenのアルバム「HOME」のアートディレクション。「彩り」は「HOME」に収録された曲。

矢野:泣いた。

森本:そう。泣いて感動してくれて、そのときにこの人は信頼できると思ったの。あの作品がきっかけで私は独立をしようと決めて、矢野さんもフリーランスを辞めて新しくEVOWORXを立ち上げて、今10年が経つんだよね。

矢野から、森本さんへの第一印象

矢野:僕は学生の頃から30歳になるまで、ゲーム業界に10年いて、それからフリーランスになりました。なので、出会った時は広告業界のことをあまり知らなかったんです。森本さんの作品はなんとなく知っていたけど、森本さん本人のことは知らなかった。最初に会った時は「豪快だな」という印象だったね。

森本:本当にひどかった(笑)。飛ぶ鳥を落とす勢いとか言うけどさ、飛ぶ鳥を撃ち落としてたもんね。「気に入らない、バンッバンッバンッ!」って。

矢野:今の雰囲気とはまた少し違ったね。あの時代特有の凄みみたいなものがあった。その当時からすでにデザイン業界もデジタル化しているタイミングだったのだけど、森本さんは真逆。すごくアナログに手と身体をつかって、本当にものづくりをしていた。

僕はずっとゲーム業界にいたので、そこはすごく驚きを感じたな。そこからプライベートでも仲良くなって、一緒に足裏マッサージにいったりとかね。

森本:足裏マッサージ行ったね。アジブリ(注3)だっけ?

注3:アジブリ ... 都内で4店舗を展開するタイ古式マッサージ「アジアンブリーズ」

矢野:そう、アジブリ(笑)。お互い仕事が夜遅かったから、深夜にね。あとは森本さんの作品が出来るたびに、当時のオフィスのスクリーンでそれを一緒に観た。

森本さんはよく僕らとの関係を「縁側」って表現するけど、僕たちはgoen°の内側に入るわけではなく、縁の部分にちょっと腰掛けているような存在。10年間、ずっとそこに座り続けてきたという感じがします。

森本:ずっとつながっているよね。内側の社員は独立をしたり、入れ替わることもあるけど、「縁側」は昔からずっと変わっていない。ずっと一緒だから新しく入社する社員のことも、辞める社員のことも「うん、うん」て、頷きながら見守っているような。家族みたいな存在だよね。

会社設立10周年を迎えて、いま思うこと

森本:まず、会社が潰れてなくてよかった…。よく10年はあっという間なんて言う人がいるじゃない。私の場合、まったくあっという間じゃなかった。長かったな…。

私は、仕事には10年のスパンで次に向かうための変化が訪れると思っていて、仕事に対してのスタンスは以前と比べて少し変わったような気がする。今は、昔よりスタッフへの期待が大きいかな。

矢野:仕事を任せられるようになってきたよね。

森本:叱り方も変わったと思う。本当に「ここは」と思うところは注意するけど、基本的には期待しているから。以前は期待しようとも思っていなかったかもしれない。

矢野:「自分がなんとかすればいいや」みたいに?

森本:そうだね。あとは「どうせ自分じゃないし」とか思っていたけど、今はみんなの方が大事。そこはすごく自分が変わった部分だと思う。矢野さんはもともといいお父さんみたいな存在だから、昔から変わらないか。スタッフのトランプ(注4)とか作ったらしいね。

注4:EVOWORX10周年記念トランプ

矢野:これは、スタッフが自発的にね。

森本:かわいい!スタッフの会社への愛の証明だね。

矢野:EVOWORXもここ数年で、若いスタッフをどんどん採用していて、徐々にこういう動きが出てきた。そう思うと、10年経ってようやくここまで来たね。

これからの10年について

森本:これまでの10年で、私は一度、落ち着いたというか、安定したので、今はまた作品に不安定を求めてる。

アナザースカイ(注5)の企画で新人の頃に創作していた撮影スタジオに行ったの。そのときに、すべての神経が「ビリビリビリ!」って再生するのを感じた。

注5:日本テレビ系列で毎週金曜日に放送されているドキュメンタリー・紀行番組。森本千絵さん出演の放送が2018年1月12日(金)に予定。

自分で言うのも変だけど、最近はすぐにアイデアを思いつくし、結構簡単に仕事が出来てしまっていたから、昔みたいにストイックに未知なものに挑戦していきたいと思ったの。また美大生の頃の気持ちに戻って創作がしたいって。

矢野:うちは会社の仕組みがまだ完全に出来上がっていないから、そこに取り組んでいきたいかな。今のEVOWORXは「人」がベースになっていて、作るものや表現するもの、コミュニケーションを含めて、すべて「人」。

だからその「人」の強さを引き出していくための仕組みをつくりあげていきたい。その土台がようやく出来始めたから、今後もそこを忠実にやっていこうと思ってるよ。

これまでは仕事の依頼が来て、それに追われるということをずっとやってきたから、10年を迎えて、「EVOWORXとはどういう会社なのか」ということをもっと明確にしていきたい。

そして今回の10周年企画もそうだけど、自分たちの会社の魅力をどう伝えていくかということを含めて考えたいね。

森本:10年前はネット業界って特別なものだったよね。矢野さんと仕事を出来るのは「あ、今回はWebサイトが必要なんですね」っていう特別なときだけだった。

でも今は特別じゃないどころか、むしろ最初からWebありきでプロジェクトが始まる。EVOWORXに広告主が依頼をして、矢野さんの判断でgoen°をメンバーに入れてもらっている案件もあるし。そこは10年で大きく変わったよね。

だんだんと、横並びでどの課題をどう解決するかを一緒に考えるパートナーになっていった気がする。

矢野:確かにね。

今回の対談を通して、これまでの10年の歩みだけでなく、そこから繋がる両社の未来についてもお話を伺うことができました。

これからも、さまざまなご縁を大切に、新しい価値を生み出していきたいと思います。

EVOWORXの更なる成長と今後の活躍をご期待ください。

森本千絵
森本千絵
1976年青森県三沢市で産まれ、東京で育つ。千絵という名には「沢山の糸(ひと)と会う」という意味が込められている。幼少期から生け花の先生である祖母とテーラーを営む祖父の影響で切り花や残布のコラージュで絵を描くことが好きになった。目的があり、人に伝えるための絵作りに早くから目覚め、中学生の頃から広告会社を目指す。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を経て博報堂入社。2007年、もっとイノチに近いデザインもしていきたいと考え「出会いを発見する。夢をカタチにし、人をつなげる」をモットーに株式会社goen°を設立。現在、一児の母としてますます勢力的に活動の幅を広げている。
goen°:http://www.goen-goen.co.jp/
矢野賢史
矢野賢史
2007年エヴォワークス設立。最初の2年は海外制作・サーバー運用を中心に活動。2009年より国内のWeb制作を中心に活動開始。会社経営と並行して、一部制作ディレクション・プロデュース担当。直近では、自社案件(ECサービス)を中心に地域振興プロジェクトなどに参画。
EVOWORX:https://www.evoworx.co.jp/